宮司さんのおはなし 第10回
明けましておめでとうございます。
平成23年、新たな年が始まりました。みなさんは、この一年をどのように過ごそうと考えていらっしゃいますでしょうか。
今年の干支は『辛卯』。本来の読み方は『かのとう』ですが、音で読むと『しんぼう』となります。まるで現在の世相を反映しているような気がしてきますが、実際はどうなのでしょうか。『辛』と『卯』、それぞれの文字が持つ意味を辿ってみましょう。
まず『辛』は“上”と“干”を合わせた文字で「地下にあったエネルギーが突然出現する」という意味を持っています。また、元来は刃物を描いた象形文字だったことから「切断する」「切り開く」といった意味も含んでいます。そのため『辛』が付く年には、地震や噴火などの天変地異や、何かを切り捨てなければならないような事態に陥ることを警戒する必要があるといわれてきました。同時にこの文字は、そうした事象による“痛み”や“辛さ”が人々にもたらされることも暗示しています。
ただ視点を変えれば、これは「混乱を断ち切ってリーダーシップを取る人物が出現する」という解釈へと転換することができます。さらに『卯』という文字が“2本の柱=門扉が開いた形”をかたどっていることから、辛卯の年は「新たなリーダーが出現して悪いものを切り捨て、新境地を開く」という性質を持っていると考えることもできるのです。
『卯』の文字が表す2本の柱は、人間に見立てると「2人がバランスよく向き合っている」形となり、これは“相思相愛”“合意”“協力”といった意味へとつながります。つまり2本の柱となる人間が力を合わせることが難局を打開する鍵になる、というわけです。身近な例でいえば、家庭内に問題が起きたときには父と母の2人が協力して事に当たる、こうした心構えが大切だといえるでしょう。
このように『辛卯』の年は、よい性質と悪い性質とを表裏一体に持っています。ですからこれをよい方向へと動かしていくためには、いままで以上に「世の中をよくしていきたい」という強い気持ちを持つことが大切です。そしてそのためにはまず、周りの人たちと助け合い、温かなつながりを作っていくことから始める必要があるのではないかと私は思います。
昨年、亡き父の二十年祭をきっかけに従兄弟会を開く機会に恵まれました。しばらく会っていなかった親戚とも久しぶりに顔を合わせ、自分たちの子供や孫の話に花を咲かせたのですが、話題にのぼる人数が多くなると時々混乱も生まれます。そこで、いっそのこと家系図を作ってみようかという話になりました。家系図を作るのは初めてのことでしたが、それが出来上がってからは親族の結束がより強まり、自分たちの生い立ちにも誇りを持てるようになった気がします。自分と関わりのある人たちとの“縁”という大きな輪を、改めて実感した出来事でした。
家族や親戚だけでなく、ともに働く人たちや友人など、誰の人生にも“縁”でつながる輪がいくつもあります。そうした輪をたくさん作り、大切に温めていける人の人生には、悪いものが入り込む隙が生まれません。ですからみなさんにもぜひ、縁あって出会った方々との輪を、大きく温かく広げていってほしいと思います。それが、ひいては社会全体を明るい方向へと導いていくことにつながるのではないでしょうか。
ともに力を合わせ、『辛卯』の年をよい一年にしていきましょう。
本年も、よろしくお願い申し上げます。