宮司さんのおはなし 第3回
今年もそろそろ秋風が吹き始める頃となりました。 「暑さ寒さも彼岸まで」と言うように、日本ではお彼岸の仲日となる春分の日と秋分の日を季節の変わり目と捉え、この時期に先祖をお祀りすることを慣習にしてきました。
神道には“彼岸”という概念はありませんが、春と秋の同じ時期に、それぞれ『御霊祭り(ミタママツリ)』と称する先祖祭を行います。 これは仏教伝来以前から行われてきたもので、本来は農耕民族であった日本人の生活を基盤に、田畑の豊作を願うことを主眼にしていました。
農作物を育てるために欠かせない存在といえば太陽です。 そこで昔の人々は、太陽とそれを司る神さまを崇め、収穫への感謝と今後の安全を願って御霊祭りを行いました。 一方で神道では、私たちが無事に生きていられるのは、それぞれの先祖が家の守護神となって見守ってくださるおかげだと考えます。 そうしたことから田植えの時期にあたる春と収穫の時期にあたる秋に、太陽の恩恵に感謝するとともに先祖をお祀りするようになったのです。
では、亡くなった方々をお祀りするというのはどういうことなのでしょう。 神道では、人は亡くなっても“あの世”へは行かず、家の守り神となって家族のそばにとどまり続けるものと考えます。 厳密にはいま私たちが生きている『現世(ウツシヨ) 』から『幽世(カクリヨ) 』と呼ばれる神域へと還られるのですが、そこに隔てはありません。 いつも近くで家族を見守り、困ったことや憂えることがあったときには、目には見えない形での助言を与えてくださいます。
ですから私たちは、常に先祖の恩恵を受けながら生きているのだということを忘れないようにしなければなりません。 御霊祭りは、このようにして私たちをお守りくださる先祖の御霊をお慰めし、亡くなった方々の意思を受け継いで今後も努力していこうという気持ちを新たにするためのお祀りです。
命とは、自分ひとりで途切れるものではなく、延々と継続されていくもの です。 死は悲しいことですが、同時にそれは後の世代へと命を繋げる “起点” であるとも言えるのです。
私たちが亡くなった方々のあとを受けて家を守り、先祖への感謝を忘れることなく生活していくならば、 自分たちの先祖、ひいては神さまからの、なお一層のご加護をいただくことができるでしょう。 お彼岸のこの時期に、いま一度、命を繋げてくださった先祖たちへと思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
※お彼岸の期間は春分の日と秋分の日を挟んだ前後3日間の計7日間です。 2009年度秋のお彼岸の入りは9月20日、明けは9月26日となります。